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お亡くなりになった大先輩のスーパーライター伝説を、ご披露いたします。
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[KID'S SIGNAL] キッズシグナル●第678号●2023年6月8日(木)
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%name_sei%さん、こんにちは。
ということで、昨日お亡くなりになった、昔昔、僕が勤めていた会社の創業社長の話の続きです。
その広告制作会社では、超有名な医療関係の企業を得意先のひとつとして抱えていました。
で、その企業の「労働組合のスライドのシナリオ」を、その創業社長が、僕に振ってくださったんです。
これは頑張らねばと、張り切って取り組んでたんですが、いかんせん「労働組合」というのがさっぱりわからない。
そもそも僕はビジネスにおける商品広告をやるために、いろいろ勉強したりはしてきましたが、労働組合というのが何なのか、何を大切にして、何をアピールするべきなのか、それはもう全然分からなかったんですね。
商品だと話は簡単なんです。市場動向を見て、商品の優位性あるポイントを見つけ、そこに絞って強調すれば、これでいちおう広告としての形は整います。
乱暴に言うならポイントを見つけて、それ以外は削除、くらいのことなんです。
でも、労働組合は違います。社員に多様な年齢層がいて、それぞれに課題や問題を抱えていて、それに対して労働組合が寄り添っていく、というようなものです。
つまりは、全年齢層・全ての問題を取り上げて取り組んでいるんだ!とアピールしないといけないわけです。
もう全然わからないわけです。
そうそう、上で「労働組合のスライドのシナリオ」と書きましたが、これはいまで言えば「プレゼンデータ」とか「パワーポイントの資料」に相当します。
労働組合の総会などで、多くの社員が集まっている中で、さまざまな写真や図版などが「スライド写真」の形で大きく映し出され、そこにナレーションがつく、という形式です。僕はそのプレゼンのストーリーの流れと具体的なナレーション内容を任されたわけです。
もう全然分からないので、クライアント企業さんの担当の方に事例をたくさんお伺いしましたし、僕が勤めている会社の方々にも集まっていただいて生活上の問題、働く上で考えなければならないことなども聞いたりしました。
で、データは集まるんですが、どうまとめたらいいか分からない。いちおうシナリオの形でざっくり書いてはみたものの、長すぎる上に、全然まとまりがないんですね。
でも、上映する日にちは近づいてくる。経験のない僕はかなーり焦りました。
なんせ、シナリオができた後には、そのシナリオに沿って、その得意先企業の中を撮影して回るという作業もあるわけです。だからさっさとシナリオを完成させないとダメなんです。でも、それができない。もう焦りまくりですよ。
そういう時に、その創業社長が、
「木田君、台本はできたのか」
と、様子を見に来てくださったわけです。で、とりあえず、まだ完成してないできそこないのシナリオを社長に見せたわけです。
そうしたら、社長はザーッとシナリオを読んで、「ふん、ふん」とうなづきながら読み返したりしてチェックされてるわけです。
僕的には、「ああ、ここでダメなところとかを指摘されて、書き直し指示されるんだろうな」と思ってたわけです。
ところが社長が言ったのは、
「うん、良くできてる。ちょっと原稿用紙とサインペンを持ってきてくれるか?」
という一言でした。
書き直し指示をされると思ってた僕は、これから社長が何をするのかさっぱりわからず、言われた通りに原稿用紙とサインペンを持って社長の前に戻りました。
その時は、社員全員が集まる会議室に社長と僕の二人だけで入って打ち合わせをしていたのですが、大きな会議机に僕が書いた原稿をトンッと置くと、社長はおもむろにサインペンを手に持ち、白紙の原稿用紙を自分の前に置かれたわけです。
「ん、何をしようとしてるの?」
と、思ったら、そこから社長が僕にインタビューを始めるわけです。
「木田君は、この話で何が大切と思ってる?」
「あ、はぁ、得意先企業さんの全社員がみんな幸せになるように労働組合が頑張っているとか、そういうことだと思ってるんですが」
「そうか。じゃ、その社員さんのセリフから始めようか」
と、社長は言うと、僕が書いたシナリオの真ん中以降に入っていた「具体的な事例」のところを開くと、「うーん」と考えながら、いきなり白紙の原稿用紙に、その事例の渦中の人間の「セリフ」を原稿用紙に書き始めたわけです。
言っておきますが、サインペンです。下書きなんかありません。
虚空を睨んで、僕の台本を見て、この問題にぶち当たった人がどう訴えるか? を具体的なセリフに落とし込んで原稿用紙にいきなり書き込んでいかれるわけです。
それもポイントを絞ってあるので、セリフ自体はさして長いものではありません。一番身につまされるような話、エピソードだけをポンと形にする。しかもサインペンでの一発書きです。
その字も、別に達筆というようなことではなくて、読みやすくてわかりやすい字が、とても味のある形で紙の上に現われてくる感じ。
そういう、得意先社員さんの架空のセリフを5人分だったか6人分だったか、僕の台本をもとにザっとと書き上げて、
「出だしはこういう具合に、実際の社員さんの顔写真を出して、セリフでつないだらどうだ? で、あとは…」
と説明しつつ、僕が書いたシナリオを、書き写しながら添削して、次々に原稿用紙に「完成台本」を築き上げていかれるのですよ。
不明な点とかがあれば、その場で僕に質問し、「この部分にこんなことが書いてあるが、これはどういうことだ?」とかね。
で、1時間ほどたった時には、もうシナリオが完成していました。
すべてサインペンでの一発書き。書き間違えて線を引いて消したところなど、ほぼなかったと記憶してます。
僕が苦労して集めた情報も、過不足なく上手にシナリオの中におさめられていて、それはそれは感心してしまったものです。
で、書き終わった後には、
「木田君、このシナリオを香盤表に直してな、スケジュールに落とし込んどいてくれ」
と言われたんですね。
「は?」
と僕は固まってしまいました。「こうばんひょう」なんてもの存在すら知らなかったので固まってしまったんですよ。
「香盤表」というのは、シナリオの中に出てくるシーンをシーン別に抜き出して、一回のロケで必要な撮影を終わらせるように整理した表なんです。こういうものはドラマとかを製作している現場とかではごく当たり前のようにあるらしいんですけど、僕は何も知りませんでしたからとにかく驚きっぱなしでした。
ほんの1、2時間前までは、この仕事がどうなってしまうか不安でいっぱいだったのに、社長との打ち合わせの後には完璧な台本が出来ていて、僕はただ香盤表という撮影を効率的に進めるための整理をするだけになっていたわけです。
あっと言う間にすべてが完璧に整っていたわけで、これは本当にプロの技と恐れ入ってしまったのです。
上映するコンテンツの演出技法、いろいろと下調べしていた僕への質問力・取材能力、そしてそれをまとめあげる文章力、そして実際の撮影につなげる実務技能。まぁ本当にとんでもない化け物のようなライターさんだなぁとおそれおののいたわけです。
しかも、原稿用紙へのサインペンでの一発書き。
まぁほんと、すごいったらありゃしない。
具体的に、その社長に教えていただいた機会は、そのたった一回だけでしたけど、この経験は強烈に残っているのであります。
多分、この事は当時勤めていた他の社員さんは誰一人知らないと思うんですよね。だって会議室に二人で入ってただけですから。
あの凄さを目の当たりにできたのは本当に僥倖でした。
お亡くなりになられた、という話を聞いて、とりあえず、エピソードを形にして残したくなったので書いてみました。
ああ、そうか。僕が毎日メルマガをやっているのも、もしかしたら、あの時の一発書きの社長のイメージがあるからなのかも知れません。
うむー。
ということで、今日はここまで。
ではではまた明日。
--------------[KID'S SIGNAL No.678 -了-]---------------
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