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ということで、高畑勲監督の「ホーホケキョとなりの山田くん」をDVDで鑑賞しました。もう超超超と超が3つつくほどの大傑作でした。
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[KID'S SIGNAL] キッズシグナル●第1308号●2025年3月18日(火)
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読者さん、こんにちは。
ということで、先日からずっと書いている「映像中毒=ひきこもり」という話の流れの中で出てきた高畑勲監督の、
●映像という架空の世界と、現実の世界を厳しく峻別する。
という考え方に沿った映画作品を、いちどちゃんと見ておこうと思って、ツタヤディスカスのサービスを使って、
●ホーホケキョとなりの山田くん
を鑑賞いたしました。
その感想。
もう、ほんとうに、魂が震えるほどの大傑作でありました。
なんやこれ。
こんな大傑作をみのがしてたのかい、私は。間抜けやな。アホちゃうか。
というくらいのものでした。
いや、実はこの作品は視聴者を選びます。鈍感で抜け作で、頭の悪い「標準的日本人」だと、
●ぬるくてゆるい、軽いコメディアニメ
くらいにしか感じ取れないと思う。
で、実は、そんな風にしか感じ取れない、と言うこと自体が、すでに「映像中毒」に陥っている、感性の濁り方をしている証拠なんだと僕は思うのです。
もうね、ラストまで見て僕は大号泣でありました。
いや、たぶん、この映画を観て「泣く」というのはかなりめずらしいんだと思うんですけどね。
どっちかというとこの映画を良いとほめる人は、
「なんだか知らないけれど心がほわっとして、けっこういい気持ちで見終えられて良かったわ。いい映画だったねぇ」
というようなことを言う程度なんだろうと思います。
でももう僕にはささりまくりでして、結婚前の独身の男女には、ぜひ一度見て欲しいと思うし、結婚した夫婦なら、子供ができる前と後にそれぞれ一回ずつ見て欲しいし、それから、死ぬ前にも一度見て欲しい。一生の間に3回から5回は見直して欲しいなぁと思うような映画だったのでありますよ。
映画がはじまって10分経たないうちに、主人公家族の父と母が結婚した時の話が出てきます。そして、その時のスピーチをするばぁさんの声をやっているのが、あのミヤコ蝶々でして、(ああ、もうミヤコ蝶々を知っている人もほとんどいてないですわねぇ)このスピーチが映画のテーマを全部語っているようなすごいスピーチなわけです。
しかも映像がまたすごい。
「これからお二人は、人生という大海原に船を出されるわけです。そこには嵐がやってくることもあるでしょう」というような内容に、ほんとうに荒れ狂う海原とそれにほんろうされる船をあやつる山田夫妻が登場しているわけです。
いや、その映像のすばらしくてすごいこと。アニメでしか表現できない、ほとんど超自然主義というか現代美術というか、大変なイマジネーションの奔流があるわけです。
で、そういうとんでもない映像の後に、もうほんとうにささやかなささやかな日常の「四コマ漫画」のつながりが描かれていく。
まぁ大変挑戦的な構成になっているのです。
これだけでもすごいんですが、ずっと見ていると、僕は「アッ!」と声をあげてしまうほど驚くシーンがありました。
それは僕がまえまえから「現代人はアメコミヒーロー映画を観なければいけない」という主張をしていたんですが、なぜそれを見なければいけないのかの、完璧ともいえる映像での解説をやってくれていたからです。
もう、ほんとうにすばらしい。
高畑勲って、なんでこんなに、物事の本質をぐいぐいと抉り取るような映像表現ができるのだろうと大感激したのであります。
ぼくがああだこうだとマーベルシネマティックユニバースを観るべき理由を語るより、はるかに上手に分かりやすく高畑さんが解説してくださっていた。ああ、すごい。本当にすごい。
ちなみに、当然「MCU」ではなく「月光仮面」なんですけどね。
もう、あまりのすばらしさにしびれまくってしまった。
映画作りをしていて、たとえ大ヒット映画が作れなかったとしても、これだけ良質ですばらしい映画が1本でも作れれば、もうそれだけで映画監督としては充分なんじゃないかなぁと思いました。
ちなみに、この映画は日本での評価は10点満点で6.8くらい。みんな分かってないなぁ。いや、日本人だからこそ、いしいひさいちの原作のテキトーさ加減に影響されて評価を下げてしまうのかもしれません。
でもアメリカでは評価はとても高く、高畑勲と言えば、宮崎駿よりうんと点数が高いというのが、アメリカでの標準的な評価です。
いや、当然でしょ。宮崎駿なんて「作家」やなくて「天才アニメーター」でしかないんやから。宮崎駿に「感動して涙する映画」なんて、生涯一本たりとも作れやしませんって。無理。
ということで、「ホーホケキョとなりの山田くん」は素晴らしい名作でした。10点満点中満点の10点をつけたいのですけど、そう評価すると、
「いや、そういうことをしてはいけません。人間は日々成長するんですよ」
と、高畑さんに叱られそうなので、映画の歴史の上で、上には上が必ず現れるという期待をこめて9点ということにしておきます。
いや、ほんとうに、この映画を観れて良かった。僕は大変幸せなのであります。
--------------[KID'S SIGNAL No.1309 -了- ]---------------